神奈川県からの旅路──電車に揺られて非日常へ
電車に乗り込んだのは、まだ朝の冷たい空気が残る時間帯だった。普段はスーツ姿で顧客先を訪ね、数字に追われる日々を送っている私にとって、この日の目的地はまるで異世界のように感じられた。乗り換えを繰り返しながら、車窓の景色は次第に都会のビル群から田園風景へと変わっていく。港町の喧騒を離れ、畑や遠くの山並みが広がる景色を眺めていると、心の中に少しずつ余白が生まれていくのを感じた。
途中駅で誰も乗り込まないドアが開くと、空気が澄んでいて、都会では感じられないやわらかな匂いが漂ってきた。駅からファームまでの道のりは、わくわくした気持ち。普段は営業成績や顧客対応の話題が中心だが、この日は「どんな野菜が採れるんだろう」「土に触るのは久しぶりだな」といった素朴な気持ちが自然に生まれていた。

収穫体験──かぶ、にんじん、ブロッコリー、大根、ケール、ねぎ、ほうれん草
畑に到着すると、軽いミーティングのあと、軍手をはめ、長靴を履き、いざ収穫へ。
・かぶ
白く丸い姿が土から顔を出す瞬間は、営業で成果を手にしたような達成感。
・にんじん
一本一本形が違い、顧客ごとの個性を思わせる。
・ブロッコリー
花蕾の詰まり具合を見極める作業は、商談のタイミングを読むことに似ている。
・大根
抜き上げるときの重みは「成果物の重み」を実感させる。
・ケール
鮮やかな緑の葉は健康志向の象徴。営業職の自分にとって「心身の栄養」となる存在。
・ねぎ
長く伸びた葉を束ねると、香りがふわりと漂う。まっすぐに伸びる姿は「誠実な営業姿勢」を象徴しているように感じた。収穫後のねぎは料理にすると香り高く、味を一層引き立てていた。
・ほうれん草
柔らかい葉を一枚ずつ摘み取る作業は繊細で、顧客との関係を大切に育む姿勢に重なる。土の力を感じさせる滋味深い味わいだった。
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仲間との交流──畑で生まれる新しいつながり
普段の職場では、営業と他部署の人たちは会議やメールでやり取りする程度で、じっくり話す機会は少ない。けれど収穫祭の畑では、部署の垣根を越えて自然に会話が生まれていた。
「この大根、思ったより重いですね」と笑う声に、「確かに、手で持つと実感できますね」と返す。普段は机上で交わす言葉が、土の上ではまるで違う温度を帯びていた。
にんじんを抜きながら「成果を得るにはタイミングが大事ですね」と冗談を言うと、場が和み、自然と笑い声が広がる。普段は業務上の会話しかしない関係も、畑では同じ目的に向かう仲間同士という関係になる。
この収穫祭は、単なる農業体験ではなく、部署間、個人間の距離を縮める場でもあった。土に触れ、同じ作業をし、同じ時間を過ごすことで、普段は見えなかった人柄や考え方に触れることができたのだ。

昼食と交流──近くのごはん屋さんへ
収穫作業も一区切り、農園長の案内でファーム近くのごはん屋さんへ向かった。
暖簾をくぐると、木の香りが漂う落ち着いた店内。テーブルに並んだ定食は、炊き立てのご飯、味噌汁、焼き魚、煮物、漬物など、素朴ながら心温まる内容だった。
「やっぱり外で食べると美味しいね」 「この味噌汁、冷えた体に染みるな」
普段は業務の話ばかりの私たちが、食事を前にして素直に笑い合う。営業職の仲間も、他部署の人も、肩書きを忘れて一緒に箸を進める時間は、会議室では得られない交流だった。
収穫した野菜は、このあと選別や無駄な葉の切り取り作業があるので、午後のスケジュールを確認。食事をしながら「今日抜いた大根はどんな料理になるんだろう」「ケールはスムージーにしたら美味しそうだね」と未来の食卓を想像して楽しんだ。
昼食を終えて店を出る頃には、心も体も満たされていた。土に触れた後の食事は、ただの食事以上の意味を持っていた。
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企業文化とのつながり──育てることの意味
収穫祭を通じて感じたのは、「育てることの大切さ」だ。営業も農業も、成果を得るまでに時間がかかる。種をまき、育て、収穫する。そのプロセスは、顧客との関係構築や案件の成約に通じるものがある。 さらに、収穫物の一部が地域のこども食堂へ寄贈されると聞き、誇らしい気持ちになった。自分たちの手で収穫した野菜が、誰かの笑顔につながる──その実感は、営業職として「社会に貢献する」意義を改めて考えさせてくれた。
来年への期待
電車で神奈川県へ戻る帰路、窓の外に広がる夜景を眺めながら思った。「営業の数字も大切だけれど、こうして土に触れ、人と協力し、成果を分かち合う時間も同じくらい大切だ」と。 次もまた参加したい。いや、むしろ毎月の恒例にしたい。収穫祭は、営業職の私にとって「心の栄養」を与えてくれるイベントだった。

~収穫した野菜を使って作ったとん汁~( 従業員提供 )